ビタミンA反応とは
レチノールやトレチノインといったビタミンAは、その抗老化やターンオーバー促進、コラーゲン産生(抗しわ)、抗アクネなど肌に様々な作用をもたらすため、美容分野では非常によく使用されています。
肌の健康に効果的なビタミンAですが、定期的に使用していると、肌が赤みが出るなどのトラブルが起こることがあります。
これは、ビタミンA反応、レチノール反応、レチノイド反応などと呼ばれています。肌が火傷したような状態になることから、レチノールバーン(retinol burn)と呼ばれることもあります。
症状
ビタミンA反応で起こる肌の症状は次の通りです。
- 赤み・かぶれ
- 乾燥・皮むけ
- 細かいブツブツ
- 痛み・痒み
症状が強い場合には、火傷のように赤く腫れてしまうこともあります。
原因
ビタミンA反応の原因の一つは、レチノイドが皮脂を分泌する脂腺細胞のレチノイド受容体に結合して、皮脂の産生を低下させることで、乾燥肌や敏感肌になることや、ケラチノサイト(表皮の細胞)の分化と増殖を促して、細胞同士の接着を緩めて鱗屑(皮むけ)が起こること、マスト細胞活性化による皮膚炎などが考えられていますが、正確な機序は分かっていません。
使い始めに多い
ビタミンA反応は、トレチノインやレチノール化粧品の使い始めに最も起こります。これは、使い始めに肌のターンオーバーが亢進して、肌が薄くなり敏感になるためです。
クリニックでトレチノインを処方する際には、「使い始めの2週間は、赤みなどが出て辛い時期になるかもしれません。」という説明をしています。ビタミンAの種類、濃度、肌質などによって異なりますが、ビタミンA反応が治まるまでの期間は数週間~2ヶ月程度です。
「最初はビタミンA反応が出なかったのに、途中から出てきました。」という方も稀にいます。これは、レチノイド以外の要因(ニキビ・アトピー・日焼けなどの疾患、ホルモンバランス、他のスキンケア剤、ピーリング・レーザーなどの皮膚に負担がかかる施術など)で肌が荒れたタイミングでレチノールを使用してしまうと、最初は問題なくても、途中でビタミンA反応が生じることもあります。
高濃度のレチノールほど多い
レチノールやトレチノインが高濃度であるほど、ビタミンA反応は強く起こります。また、活性が強いトレチノインのほうがレチノールよりもビタミンA反応を引き起こしやすくなります。
予防法
肌が弱く敏感な方は、ビタミンA反応が出ると「レチノールは私の肌に合わない。」と使用を中止してしまう方も少なくありません。
しかし、ビタミンA反応に対する効果的な対処法を知っておくだけで、ほとんどの方はレチノールを使えるようになります。そして、使い続けていくことで肌が慣れてくるため、ビタミンA反応は徐々に起こりにくくなります。
低濃度の製品から始める
一般的に、化粧品に配合されているレチノールは0.3%以下のものが多く、医療専売品のレチノールでも0.5%程度です。
稀に1%以上の高濃度で配合されているものもあり、ビタミンAに肌が慣れていない場合、かぶれや赤みを強く引き起こしてしまうことがあります。
初めてレチノールをご使用になる方は、0.1%以下の低濃度から始めるのがおすすめです。ビタミンAに肌が慣れている方は、0.3%や0.5%の濃度の製品をご使用になっても問題ありません。
濃度が明示されているレチノール製品を選択するほうが安全です。
酸化しない製品を使う
レチノールは酸化が早く、光や空気で容易に劣化します。たとえ低濃度であっても、酸化したレチノールを使用すると、肌への刺激につながります。
酸化防止対策の徹底している製品を選んでください。
週2日から始める
敏感肌の方は、週に2日(夜に1回)から開始して、少しずつ肌を慣れさせていきましょう。1週目は月曜日と木曜日、2週目は月・木・土、3週目は月水金土といった具合に、徐々に日数を増やしていきます。
刺激や赤みを感じる場合には、2週間毎に1日ずつ増やしていっても構いません。焦らずにゆっくりと増やしていくことがコツです。
保湿をしっかりと行う
保湿後にレチノールを使用することにより、肌への刺激が低減することが報告されています。
レチノールによる肌の乾燥を防ぐためにも保湿をしっかりと行いましょう。保湿はクリーム(セラミドやナイアシンアミドが配合されたもの)がおすすめです。また、レチノール製品自体に保湿力を持たせたものもありますので、そのような製品を選択するのも良いでしょう。
洗顔の回数を減らす
洗顔料(界面活性剤)を使用しての洗顔は、肌バリア(角質層)を壊す原因となります。ビタミンA反応が出ている間は、多くても1日2回までとしてください。ぬるま湯洗顔などを併用して、洗顔料での洗顔は1日1回、もしくは、それ以下の頻度でも十分です。
洗顔はなるべくこすらず優しく洗い、洗浄成分が残らないように丁寧にすすいでください。タオルの摩擦も肌への刺激につながりますので、押し付けるようにして優しく水分を拭き取ります。
紫外線対策を徹底する
レチノール使用中は、角質が薄くなり、日光に対して弱くなります。SPF30以上の日焼け止めで肌を紫外線から守ってください。ビタミンA反応が出ていて、日焼け止めすらも刺激になってしまう場合には、日傘を差してなるべく日陰を歩くなどして肌を保護しましょう。
他の薬剤や治療との相互作用に注意する
ビタミンA反応が起こっている間は、肌が過敏な状態になっていますので、ピーリング(サリチル酸、グリコール酸、乳酸など)やレーザー治療などを避けてください。
ビタミンA系の薬剤であるイソトレチノイン、トレチノイン、ディフェリン(アダパレン)、エピデュオゲルなどの使用も悪化の要因となりますので、治療中の方でビタミンA反応が起こった場合には、レチノール化粧品を一旦中止して、かかりつけの皮膚科医の指示に従ってください。
腫れ、かぶれなどがひどい場合や、アレルギー症状(蕁麻疹など)が起こった場合には、皮膚科での治療が必要になることもあります。その場合にも、使用を中止して皮膚科医にご相談ください。
まとめ
- ビタミンA反応は使い始め~2ヶ月、高濃度の製品で出現しやすい
- 低濃度で酸化しにくい製品を週に2日から開始してみる
- 洗顔回数を減らし、保湿、紫外線対策を徹底して肌への刺激を避ける
ビタミンAの肌への効果は短期間で出ないため、最低でも2ヶ月以上、できれば日々のスキンケアにずっと取り入れることをおすすめしています。ビタミンAは使わないのはもったいないと言えるほど美肌には重要な成分のため、予防法を試しながら、自分に合った製品と使い方を見つけてください。
医療法人社団 肌のクリニック院長 皮膚科医/美容皮膚科医/内科認定医/抗加齢医学会専門医/化粧品成分上級スペシャリスト/日本化粧品検定1級
AirPORULEとスキンケアやメイクアップ製品の共同開発を行っています。
参考文献とサイト
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