レチノイド(ビタミンA類)は、妊娠中に過剰に摂取しても不足しても胎児に影響を与えるビタミンです。
レチノイドは、美肌に重要なビタミンであり、皮膚の弾力性の向上、テクスチャー改善、シワや毛穴の改善、スキントーンの改善、ニキビの改善など、様々な効能効果があります。
皮膚科では、比較的作用の強いトレチノインやアダパレンといったレチノイドが処方され、化粧品では、レチノールやパルミチン酸レチノールといった、比較的作用が弱いレチノイドが配合されています。特にレチノール化粧品は、その美肌作用と手軽さから、近年非常に人気が出ています。
妊娠中のビタミンA化粧品は安全?
レチノールなどのビタミンA類の化粧品を妊娠中に使用しても安全でしょうか?
外用か内服か?
まずレチノイドを外用(化粧品のように皮膚へ塗る用途)として使用するのか、内服用(飲む用途)として使用するのかを分けて考えるべきです。
内服薬として使用されるイソトレチノインは、妊婦への催奇形性(胎児に先天性欠損症などを引き起こす作用)があるため、妊娠・妊活までの一定期間は必ず中止しなければなりません※1。
一方、外用薬として使用されるトレチノインは、皮膚から体内へほとんど吸収されません。妊娠初期にトレチノインを使用した妊婦と使用していなかった妊婦での前向き研究では、母体の自然流産の割合、妊娠期間に有意差はなく、乳児の出生時体重、頭囲、体長、先天性欠損の発生率にも有意差を認めませんでした。
他の研究でも、妊娠中のトレチノインの外用が胎児の奇形リスクを増加させるという明確なエビデンスはありません。
※1 自然妊娠で先天性疾患をもって生まれる赤ちゃんは全出生数の3-5%ですが、イソトレチノイン終了後に期間を空けて妊娠した場合、その確率を上げることはありません。
ビタミンA類の種類
レチノイド(ビタミンA類)の中でも、医薬品として使用されるトレチノインは強力な作用があります。一方、化粧品に配合されるレチノールは、体内でトレチノインへ変換されることで薬理作用を発揮しますが、トレチノインの生理活性の1/50~1/100、実際の皮膚への効果は1/10程度であると考えられています。
トレチノインよりも生理活性がさらに弱いレチノール製品が、催奇形性のリスクを増加させたという報告はありません。
濃度
化粧品のレチノール濃度は0.01%~0.5%程度のものが多く、稀に1%以上の高濃度のレチノールを配合している製品もあります。
レチノールよりも50倍活性の強い、医療用のトレチノインは、0.025%~0.1%程度のものが多く処方されています。0.05%のトレチノインを連日使用しても、体内のビタミンAレベルに変化がないことも報告されています。
レチノールよりも活性が強いトレチノインでビタミンAレベルの変化がないことを考えると、よほど高濃度のレチノールを広範囲に使用しない限り、問題は起こらないでしょう。
妊娠中はビタミンA化粧品を避けるべき?
まず化粧品よりも、口からの摂取量に注意すべきです。ビタミンAの上限量は1日あたり2700μgRAE※2ですので、サプリメントやレバー(肝臓)※3などの食品から、過剰にビタミンAを摂取しないようにしましょう。
逆にビタミンAの摂取量が少ない場合、母体や胎児の死亡、感染症の増加、早産、低体重児、先天性異常などのリスクを伴う可能性が示唆されています。
ビタミンAの排泄量は体重あたり9.3μgRAEと推定されており、そこから最低必要量を求めると、体重50kgの方で1日465μgRAEのビタミンA摂取が必要とされています。
妊娠中のビタミンA摂取は、過剰に取りすぎても少なすぎても害になります。十分に注意してください。
外用ビタミンAの場合、皮膚から体内へある程度は経皮吸収されることも報告されていますが、化粧品で使用されている濃度は低く、経皮吸収されたとしても、そのわずかな量で安全性が損なわれることは考えにくいでしょう。
それでも多くの皮膚科医は、妊娠中に外用ビタミンAを避けるように指導しています。理由として、過去の研究で安全性は示されているものの大規模な試験ではなく、100%安全だという十分な根拠が得られていないことや、妊娠中の安全性の試験がなされていないこと、製品によって濃度や吸収率にばらつきがあり、一概に判断できないことなどが挙げられます。
AirPORULEのCセラABプラスのレチノール濃度は0.1%であり、妊娠中にご使用になったとしても安全性に問題はないと考えておりますが、安全性試験を行っていないことから、念の為、妊娠中と授乳中のご使用をお控えいただいております。
しかし、もし妊娠に気づかずに短期間使用してしまった場合でも、ご心配なさらないでください。一旦中止して、授乳が終わったタイミングで再度ご使用ください。
※2 RAE(retinol activity equivalents)はレチノール活性当量。ビタミンA単体の場合はμg=μgRAEです。2,700μgRAE≒9,000IU(国産単位)に相当します。
※3 豚レバーは100gあたり13,000μg、鶏レバーは14,000μgのビタミンAを含有しています。
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医療法人社団 肌のクリニック院長 皮膚科医/美容皮膚科医/内科認定医/抗加齢医学会専門医/化粧品成分上級スペシャリスト/日本化粧品検定1級
AirPORULEとスキンケアやメイクアップ製品の共同開発を行っています。
参考文献とサイト
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